今回は、日経コンピューター創刊当時からの連載記事「動かないコンピューター」からのご紹介です。
この時期は。年中行事の様に公的システムの障害が起こります。
昨年は東証の事故、今回のご紹介は地方自治体のサービスの事故です。
これは住基に関する障害で、地方自治体の行政システムを知っている人であれば、冷や汗ものものです。
住基(住民基本台帳)システムは、全ての地方自治体システムの出発点であり、これで障害が起きると、続く住民税や、国民健康保険、福祉、固定資産税、軽自動車税、最後の収納など、全てのシステムに影響するからです。
幸い、住民票や印鑑証明などの出力関係に限定されたので、致命的な事態は避けられました。
昨年の東証の障害に主同じことが言えますが、人為的な単純ミスが発端で、このケースも、最終的な原因は不明のままなようです。
以下、記事の紹介です。
2021年9月、TKCの住基クラウドサービスでシステム障害が発生した。全国142の自治体で住民票や印鑑登録証明書などを印刷・発行できなくなった。障害の起因となったのは、開発担当者による更新ファイルのコピーミスだった。ファイルの破損に気づくことなく、そのまま本番環境に反映されてしまった。TKCは更新ファイルの作成手順や検証体制などを見直して再発を防ぐ考えだ。
住民票の写しや印鑑登録証明書を印刷・発行できない――。栃木県矢板市役所デジタル戦略課の石川民男課長が市民課の担当者から連絡を受けたのは、2021年9月9日午前8時前のことだった。同担当者は午前8時30分の開庁前に印刷しなければならない文書があり、準備の過程で気づいた。
原因は、矢板市役所が利用しているTKCの自治体向けクラウドサービス「TASKクラウド住基システム」の障害だった。同サービスは、住民基本台帳法に規定される住所や氏名、生年月日、性別、続柄、世帯などの基本項目を管理するシステムだ。市役所の窓口での交付がストップした一方、幸いにも「コンビニ交付」は引き続き利用できた。矢板市役所は「苦情などはなかった」(石川課長)というが、同サービスを契約している全国164の自治体のうち142団体が影響を受けた。
コピーが正常に終了したと勘違い
TKCの飛鷹聡専務執行役員は今回の障害を受け、「システムを利用する自治体や住民の皆さんに迷惑と心配をかけたことを大変申し訳なく思っている」と謝罪する。障害が起こったきっかけは、前日の9月8日午後9時に実施したシステム更新作業だった。ここで人為的なミスが発生した。
同社では開発環境でプログラムを作成した後、開発担当者がそのファイルをテスト環境に手動でコピーし、動作確認する手順をとっていた。この最終確認で問題がなければ、同ファイルを本番環境に適用するため、いったんDMZ(非武装地帯)にあるセキュリティーサーバーに手動でコピー。その後、TKCデータセンターの管理サーバーを介してプログラムを各自治体のクラウド環境に配布し、自動適用していた。
ミスがあったのは、プログラムファイルをセキュリティーサーバーに手動でコピーする作業だ。ファイルのコピー時間はプログラムによりまちまちだが、1分以内に終わることがほとんどだという。「いつもよりコピーに時間がかかっている」と感じた担当者は作業をもう一度やり直すつもりで、キャンセルした。
ところがキャンセル後にコピー先のセキュリティーサーバーを確認すると、ファイル名やサイズ、ファイルの総数がコピー元と同じになっていた。担当者は正常にコピーされたと勘違いし、次の工程に進めてしまった。ファイルは正常にコピーされておらず、中身が破損していた。破損ファイルがそのまま各自治体のクラウド環境に配布・自動適用され、障害に至った。
飛鷹専務執行役員によると「2010年からTASKクラウド住基システムを提供しているが、ファイル移行時の人為的なミスで障害が起こったのは初めてだった」。作業した担当者はTASKクラウド住基システムの開発チームに所属する同社の社員で、チームの中核的な存在だった。再現検証でも同じ事象を確認しており、「なぜコピーに時間がかかったのかは分からない」(飛鷹専務執行役員)という。
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